患者さんの清拭とご家族への対応です。
チューブ類の抜去から入浴までの手順を、case-by-case
そして、step by step で解説をします。
目次
清拭
ご家族に参加を促す
頻繁に「よろしいでしょうか?」と確認するのは、具体的なケアの始まりとして、これから了承を得ながら進めていくことを示すためです。
また、ご家族が「やらなくてもよい」と拒否をするタイミングとして、この言葉を入れています。
「よろしいでしょうか?」と言葉にしなくても、多少の間をとって、ご家族が言いやすい状況をつくるのとよいかもしれません。
またユダヤ教など、宗教によって死後の身体は、宗教で定められた特別な人以外は、清拭や更衣ができない場合もあります。
ご家族のどなたかに説明や相談をしながら、そして了承を得ながらでなければ、進めることができないという姿勢を言葉にします。
すでに、ご家族が室外に出ていた場合は、
…と言います。
ご家族の戸惑いへの対処法
など、戸惑いがみられたら…
自分が無理に何かを行わなくてもよいのだ、と安心していただきます。
実施の促しは、清拭や更衣を行う直前、もしくはナースが行うのを、少しご覧いただいてから声をかけます。
誰と誰がいればいいか?など、ご家族同士で顔を見合わせたり、戸惑うような様子なら…
裸を目にすることになる清拭には、誰が入るのか?
そのあとの段階には、誰まで入るのか?
退院までの流れを説明したキーパーソンに、その調整を考えていただくように声をかけます。
部屋のつくりや広さによっては、ご本人のすぐそばにいらしていただく方以外は、退出ではなく室内の足元やベッドから少し離れた場所のソファなどで過ごしていただきます。
その際、キーパーソンが順次、彼らにも声をかけるように促すとよいでしょう。
このことをはっきり伝えておけば、毎回「行ってよろしいですか?」と言葉にする必要がなくなります。
できるだけ早い段階に伝えておきたいことです。
点滴やチューブ類の対応
チューブ類は頭部から足もとの順に、抜去していくのが望ましいでしょう。
全身清拭の順序に沿う対応が、生きているときと同様に見ているご家族にとって、丁寧で自然です。
また、足もとのほうから抜去するのは、普段と逆に足もとからご遺体を拭く「逆さごと」としての清拭を連想する場合があります。
ひとつずつ、ご家族に了承を得るように、声をかけていきます。
時間の関係などで、同時に何箇所も抜去する際にも、了承を得る言葉や態度で、できるだけ丁寧に行います。
皮下出血の対応
死後は、血流が消失し、停滞や滞留が生じて血液が凝固するため、凝固因子が消費された状態になり、血液凝固機能を失った血液による出血傾向となります。
そのために、IVHや留置針などの抜去部からは、凝固機能を失った血液が、少量ずつじわじわと持続的に出血します。
その結果、頸部や手甲などに広く皮下出血が起きるのです。
場合によっては盛り上がり、その後、その部位は赤紫色に変化し、ご家族が困惑し問題になることがあります。
ご遺体の皮膚は刻々と脆弱になるため、圧迫は避けるのが望ましいのですが、カテーテルや針の抜去部位は、しっかりと圧迫固定します。
後に、皮膚の変色をカバーする場合、変色の色に近い色のファンデーションを肌色に混ぜたり、下地として使用します。
なお、皮下出血が起きやすいのは、高齢女性、血液内科疾患、重篤な肝機能障害などの方で、よく起きる部位は、側頸部、手背部、足背部の血管表在部位などです。
口腔ケアと眼内ケア
患者さんによっては、死後1時間ほどで死後硬直によって顎関節が硬くなり、開口しづらくなります。
口腔ケアは、保清の中で一番早く行うことをお勧めします。
ご本人に向かって、
口腔ケアは、
- ガーゼなどで汚れを拭う
- 水分を湿らせて拭う
- 歯磨きの方法で、できる範囲で行う
- 眼内は目蓋の開く範囲で、ガーゼや綿棒を使って汚れを拭う。目蓋が開きにくい場合は、綿棒を使ってできる範囲で眼脂を拭う。
入れ歯が入らない場合
入らなかった入れ歯は、説明しながら大切にご家族に渡します。
エンゼルデンチャー
ワックス製で、手で成形し直したり、ハサミでカットしたりが可能です。
やや小ぶりにすることで、挿入しやすくできます。
上下一対で1,300円程度です。
歯を入れてあげたいという思いが、強いご家族は少なくありません。
しかし、治療や療養のために外していた入れ歯を再び入れようとしても、口腔内が変形してしまい、入らなくなっていることが多いのです。
含み綿で補うこともできますが、綿が口元から見えたり、不自然な印象になることがあります。
死後硬直の説明
この後に顔や身体の保清を行いますので、暫定的にタオルを丸めるなどして、顎の下にはさむ対応をします。
臨終前に下顎呼吸がみられた患者さんは、死後1時間程度で下顎硬直が発現することがあります。
急死された患者さんのご家族への対応
舌を噛んで硬直している場合の対応
舌を噛んだ状態で急死して、すでに強く硬直している場合、死後硬直の経過や乾燥傾向などを配慮すると、次のようなケアがをします。
- 露出している舌の乾燥が激しいと予想されますので、油分塗布、あるいは外気が触れないように布類でカバーします。
- 舌が露出している口元を目にするのはつらいもので、ご家族と相談してハンカチやタオルなどで、その部分を覆います。
皮膚の脆弱化
臨終後は皮膚も刻々と弱っていきます。
血液の循環など生体機能が停止するため、皮膚の弾力も急激に失われていきます。
そのため、生体のときと同様の方法で顔剃りをすると、表皮が削り取られ、ほんの数時間で革皮様化してしまうことがあるわけです。
生体の頑丈な皮膚でしたら、表皮に傷がつきにくく傷がついたとしても、剃刀負けと呼ばれる状況から、やがて治癒していきますが、ご遺体の皮膚はそうはいかないのです。
ご遺体の顔剃りは、クリームやシェービングフォームを必ず使用します。
カミソリや電気カミソリをそっと皮膚に当てて剃り、終了後には油分をたっぷり塗布します。
入浴
ご家族に、
そして、患者さん本人に、
その様子を、ご覧になっているご家族に、
ご家族と一緒にふきながら…
清拭の場合は、タオルを濡らすお湯に沐浴剤や入浴剤、あるいはアロマセラピー用エッセンシャルオイルなどを混ぜるのも入浴の雰囲気になります。
お湯につけて腐敗は?
全身清拭の場合、手浴や足浴をご家族に行っていただくことをお勧めします。
身だしなみの基本といえる保清行為をご家族自身が行うことで、貴重な看取りの場面になります。
死後の身体は、環境温度の影響を受けて、手足や露出している頭部から体温が下がります。
手足を温めた場合、生体でしたら循環によって全身に熱が伝わりますが、ご遺体には循環はありません。
手足をお湯につけても体幹部分には熱が伝わりにくく、腐敗を助長しないと考えられます。
また、手浴・足浴で爪が柔らかくなり、そのあとの爪切りの準備にもなります。
爪切りとマニキュアの効用
爪切りやマニキュアはご家族が手を出しやすいので、ご遺体に自然に接する手段になります。
爪の蒼白化は目立つ場合がありますので、お帰りの際は透明のうすいピンク系のマニキュアなどを塗ると穏やかな印象になります。
ご本人のマニキュアがあれば、ご帰宅後に塗り直しても、重ね塗りしてもかまわないことを付け加えます。
簡易シャンプー
紙オムツの使用については、必ず了承を得ます。
お下に使う紙オムツを使用されたと、残念に思うこともあるからです。
了承が得られない場合は、バスタオルなどで代用します。
髪を洗いながら…あるいは洗うのを手伝いながら…
臨終前に、あまりシャンプーが実施できなかった場合、その理由をさりげなく説明することも大切です。
簡易シャンプーの手順
シャンプー、リンス、お湯をシャンプーボトルなどに入れたもの、紙オムツ2〜3枚、タオル数枚、ブラシ、ドライヤーを準備します。
- 水分を受けるための紙オムツを一枚、頭の下に敷きます。
- 頭皮が弱くなっていることを配慮して、頭皮に負荷がかからないように、毛先から優しくブラッシングします。
- 髪をお湯で濡らします。
- シャンプーをつけて泡立てて、頭皮を傷つけないよう指の腹で優しく洗います。
- タオルで泡をできるだけ拭います。
- お湯で流します。
そして、必要なタイミングで紙オムツを取り替えます。 - 髪のパサつきをおさえるリンスをつけて、お湯で流します。
- タオルドライをして、ブラシで整え、ドライヤーで乾燥させます。
ドライヤーで乾かす際は、前髪をおろす方向など、髪の整え方を意識して行いましょう。