成年後見の最新情報
成年後見制度は、なかなか身近な制度になりません。
困難ケースと法律問題のパッケージ。
そんな現状を改善しようと、利用者がメリットを実感できる制度への取り組みが始まっています。
全国の市町村に「中核機関」を設置して、相談しやすい体制づくりが進められているほか、新たに家庭裁判所に提出する「本人情報シート」が導入されます。
利用者だけでなく、わが親のためにも知っておいて損はない成年後見の最新情報をお伝えします。
ふさわしい後見人選定のために
悪徳業者にあって、高額なものを買わされた…
家族と金銭トラブルが絶えず、第三者の介入が必要…
成年後見といえば、こんなイメージかもしれません。
現在、後見人の担い手は、司法書士や弁護士などの専門職が大半を占め、家族が担う親族後見人の割合は約20%です。
専門職後見人の不正がニュースになっていますが、実は9割以上は専門職以外の後見人によるものなのです。
日本では、親のお金は子どものお金という考えがあり、不正という意思なく親のお金を引き出している事例もあるのです。
メリットを実感できる後見制度とは、本人にふさわしい後見人が選ばれるということです。
そのために新しく導入される「本人情報シート」は、本人の生活状況に関する情報を福祉担当者が記載し、申立て時に医師の診断書とセットで家庭裁判所に提出されるものです。
いかに本人の意思決定支援を行なってきたかも重要になるとされています。
そして、本人の意思を丁寧にくみ取ることができる「親族後見人」の後押しです。
「親族後見人」の利用が低迷している一因には、申立て先となる家庭裁判所に「相談しにくい」という現状があります。
そもそもどうやって申立てすればいいのか分からない…
もし後見人になったとしても、本人の生活や収支・財産管理の状況についての家裁への報告は、法律や福祉の専門家でない人にとっては、なかなかハードルが高く、家裁側も「親族後見人」に対しては厳しい目を向けているのです。
権利擁護支援の地域連携ネットワーク
成年後見の利用促進のカギと位置づけられているのが「中核機関」です。
利用相談の窓口として、家庭裁判所をはじめ、法律の専門職、医療福祉関係者と連携して、本人や家族を支援することが期待されています。
国の基本方針では、全国の自治体に設置し、身近な家族に後見人になってもらいたいけれど、なかなか思うようにいかない。
家庭裁判所との関係をつくり、こうしたミスマッチの解消が目的です。
背景には、家裁側もふさわしい後見人像をイメージできないまま、選定している現状があるからです。
いくら福祉の側からこの人を選任してほしいと言っても、家裁としては財産管理で不正が起きては困ってしまいます。
本人にとってもふさわしい人が選ばれ、かつ問題が起きないように支えていくためには、もっと家裁と対話する場が必要で、その連携の場をつくるのが、中核機関の役割なのです。
地域連携ネットワークに、中核機関が中心となって協議会を立ち上げ、家裁と司法の専門職が入り、さまざまな関係者と顔の見える関係をつくり、中核機関が後見人を推薦し、家裁がそれを選定する体制で本人や家族を支援することが期待されています。
成年後見センターは社会福祉協議会など、既存の組織が担うケースが多く主な事業は、
①広報・啓発
②相談
③制度の利用促進
④後見人支援
…などが、求められるとされています。
現在設置しているのは、全市町村の4.5%。
2021年度までに、全国の設置を目指しているそうです。
後見制度支援信託で不正を防止
財産管理といえば、信託銀行です。
後見制度と組み合わせた「後見制度支援信託」というものがあります。
被後見人の財産を後見人が使い込む。
そんな、あってはならない不正が起こるのは、家庭裁判所の目が届きにくい中、個人の良心にゆだねられる部分が大きいからです。
そこで注目されているのが、財産管理を別の専門家に任せる仕組みです。
信託を利用する場合は、資産を信託銀行に預け、信託契約を結びます。
契約後は、銀行は管理する金銭の中から、契約によって定められた金額を、定期的に後見人が管理する預金口座に振り込みます。
後見人は、この口座から本人の生活費用を引き出して使うのです。
入院など急に多額のお金が必要となった場合は、家裁の指示書が別途必要になり、後見人が好き勝手に使うことはできません。
しかし、全国に信託銀行があるわけではありません。
そこで法務省や金融庁が中心となって、日常的な生活に必要なお金のみ、家族が引き出せる「成年後見支援貯金制度」などの整備が進められています。
これは成年後見に限らず、認知症や判断能力が落ちてきた段階で視野に入れることができます。
財産を大口口座、小口口座に分け、日常使うお金は大口口座から小口口座に定期的に送金され、大口預貯金からお金を引き出すときは、家裁から指示をもらう必要があります。
小口預金の引き出し分について、細かくチェックすることはできませんが、大きな財産は守られることになります。
民事信託で信頼できる家族に財産を託す
2004年の信託業法改正、2006年の信託法改正で金融機関以外の信託会社の設立が認められ、さらに信託業法で規制を受けて行われる信託銀行や信託会社によらない信託も可能になりました。
これを民事信託といい、家族が担い手になることが多いので、家族信託と呼ぶ人もいますが、親の介護が問題になりそうな人や障害のある家族がいる場合にも、知っておきたい仕組みとなっています。
民事信託とは、お財布を分け、その分けたお財布の一つを信頼できる第三者の管理に任せるということで、これを「信託する」といい、信託して任せた第三者を受託者、利益を受ける人を受益者といいます。
例えば、認知症になったら施設に入ろうと思っている親が、民事信託を使って子供に財産の一部を託しておけば、成年後見の仕組みを使わないでも信託された財産を使って施設や病院の支払いができます。
この場合、親が委託者でありかつ受益者、子供を受託者とする信託契約を結び、施設にお金を送金してもらうことなどが契約の目的です。
子供の役割は後見人と似ていますが、家庭裁判所にお伺いを立てなくてよい分、負担が少ないのです。
任意後見制度は、自分だけのためにしか使えませんし、死亡した段階で契約は終了となります。
民事信託を併用することで、家族の分まで含めて本人の想いにそって資産を使うことができるようになりますが、受託者の監督人の義務付けがないことで、後見人よりもブラックになる危険性もあります。
身上保護と財産管理の分業
「身上保護」は、身近な法律行為のほうが後見人の重要な仕事で、身近な親族がいるのなら、その人がなるのがよいだろうという考え方です。
身近な家族がいる場合は、親族に後見人を担ってほしい。
そして親族後見人を増やすためには、不正が起きない仕組みをつくる必要があります。
そんな国の方針がある中で期待されているのが、銀行が認知症の人の財産を守る信託などの金融サービスの活用です。
そして民事信託は、信頼できる受託者がいるかどうかがカギです。
すでに事件も発生し判例も出ています。
後見と民事信託を組み合わせることで、世界で高齢化の先頭を走る日本にふさわしい、成熟した後見の仕組みをつくっていく必要があります。
そして成年後見人の職務は、財産を適切に管理するための財産管理事務だけでなく、生活・医療・介護・福祉に関するサービスを受けるための身上保護事務が重要とされています。
財産管理では、その対象が、現金・預貯金・動産・不動産等で、多くの人の財産を同じノウハウで管理することができます。
しかし身上保護では、その対象が主として本人の想いを後押しすることとなるため、人の数だけ種類があり全てに対応できるノウハウが必要となります。
財産管理では、専門的な知識や技能が重要なのに対し、身上保護ではむしろ人生経験の方が役立つ場面が少なくありません。
身上保護と財産管理を分け、市民後見と法人後見の分業で、担い手を増やすことも急務なのです。