ライフプランをふまえたベスト相続
相続では…
残された家族が今後どのように生活していくのか?
家族のライフプランをもとに考えていくことが大切です。
相続税が、かからない範囲の相続だとしても、残された方が住む場所や、生活していくための資金を確保していかなければいけません。
特に自宅が相続財産になる場合は、そこで暮らしていた家族のこれからの生活に大きな影響を与えます。
自宅に住み続けるのか?
売却して現金化して、相続人で分け合うのか?
起こりがちなケースをご紹介します。
目次
Aさん一家のケース
- Aさんは自宅を所有していて、妻と2人暮らしをしていました。
- 子どもは2人、どちらも結婚して自宅の近くに、それぞれ家族と共に暮らしています。
- Aさんは、遺言を残さずにお亡くなりになりました。
- 相続する財産は自宅以外に、ほとんどありません。
Aさん一家の現状と希望
相続する財産のほとんどが、自宅などの不動産の場合、どのように相続したらいいのかを決めることは難しい問題です。
相続の考え方は、家庭の事情で異なりますので、それぞれの事情を考えた上で、総合的に判断することが重要です。
今回のケースでは、Aさんの妻は自宅に住み続けたいと考え、子どもたちも基本的には納得しています。
5つのライフプランをご紹介し、それぞれのパターンで、どのようなメリットとデメリットがあるのかを解説します。
家を相続して居住を続ける
メリット
- 妻の居住 費がかからない。
- 住み慣れた環境で、継続して生活できるため、精神的な負担が少ない。
デメリット
- 高齢化により、一人暮らしが難しくなった時に、ケアする人が必要になる。
- 万一、健康が悪化した場合、施設などの入居費捻出のために、自宅を売却しようと考えたとしても、妻が認知症などの状況によっては、売却できなくなる可能性がある。
ポイントの解説
残された妻が、今までの生活スタイルを変えずに、自宅に住み続けることを最優先に考えた相続の方法です。
自宅を全て妻に相続させることにより、これまでの生活の延長線で暮らせるため、ストレスがかからず、子どもたちにとってもデメリットがなさそうに思えます。
しかし妻が高齢になり、認知症や体力の低下が生じた場合には、一人での自宅住まいが厳しくなるということも考えなければいけません。
そうなった時に、子どもたちで、どのようにケアをしていくべきか、長期的な目線を持つ必要があります。
家を相続して売却して介護施設に入居する
メリット
- 介護施設への入居により、生活環境が安定する。
デメリット
- 妻が住み慣れた家を手放すのが嫌がり、介護施設に入りたがらない可能性もある。
- あらかじめ収支計算を考え、足りない部分をどのように支えていくのかを考える必要がある。
ポイントの解説
自宅を妻が相続し、売却したお金で介護施設に入るという方法も考えられます。
相続した自宅を売却し、これからの生活資金にあてるという考えも、近年は非常に多くなってきています。
これは、売却したお金で介護施設に入居するというケースですので、離れて暮らしている子どもたちにとっては、安心できるプランです。
しかし妻にとっては、長年住み続けた自宅を手放す必要があり、施設に入ることにも抵抗感のある方が多いというのが実情です。
そのためには、しっかりとコミュニケーションを取り、妻が納得できるかどうかがポイントになります。
また、仮に施設に入居した場合であっても、生活費は必要になるため、資産がゼロになった場合に、どのように支援をしていくかについても、考える必要があります。
家を相続して賃貸に出し介護施設に入る
メリット
- 自宅を賃貸に出すことにより、年金以外の生活資金が得られる。
- 介護施設入居により、生活環境が安定する。
デメリット
- 長年住み慣れた家に、住むことができない。
- 家の入退去管理費用や修繕費用がかかる。
ポイントの解説
仮に相続する自宅が商業地などの好条件にある立地の場合には、自宅を相続し、それを賃貸として貸し出すという考え方もあります。
賃貸料を得ることで、介護施設などの利用料をまかなうという考えです。
しかし、賃貸として自宅を貸し出すことにした場合、入退去管理費用や修繕費用もかかってきますので、これらの費用もあわせて考えて、収支計算を行う必要があります。
また周辺環境の変化や建物の劣化などによる賃料の下落、大規模修繕などの出費、突然の空室リスクなど、収支が完全には予測できないことも多いため、想定外の事態が生じた時に、どのように対応していくのかを考えていく必要があります。
家を相続して子どもに家族信託で家を預ける
メリット
- 住み慣れた自宅での生活環境の継続と、いざという時の介護施設の費用捻出の両立が可能。
デメリット
- 妻と子どもで、あらかじめ家族信託契約を締結し、名義を子どもに移す必要がある。
ポイントの解説
妻が家を相続し、子どもに家族信託で預ける方法は、ライフプラン「①家を相続して居住を続ける」「②家を相続して売却し、介護施設に入居する」の欠点をフォローする方法だと考えられます。
ライフプラン「①家を相続して居住を続ける」では、妻の健康状態が悪化した場合、介護施設に入居するための資金として、自宅を売却しようとしても、妻の健康状態によっては、契約できないというデメリットがありました。
しかし、妻と子どもで事前に家族信託契約を締結し、自宅を長男や次男に預けることで、そのような状況に陥っても、問題なく売却の手続きが可能です。
家族信託で自宅の名義を子どもに変更し、妻が健常な時は、自宅で居住を続ける。
そして万一、健康状態が悪化して、介護施設に入居する必要が出てきた場合には、子どもが家を売却し、代金は介護施設の費用に充当するというような対応が可能になります。
子どもが家の所有権を取得して妻が家の居住権を取得する
メリット
- 住み慣れた環境で、継続して生活ができる。
- 子どもは、法定相続分相当の財産を取得できる。
デメリット
・法定相続分相当の遺産として、自宅の所有権を取得しても、居住権付きの家のため、すぐに売却することはできない。
ポイントの解説
このライフプランは、改正された相続法を活用したものです。
配偶者居住権という権利が創設されたことで、遺産分割協議や遺言によって、配偶者居住権を取得した配偶者は、終身、自宅に居住する権利が与えられます。
この制度は子どもが、法定相続分相当の財産を確保したい場合にも有効です。
- 家を相続して居住を続ける
- 家を相続して売却し、介護施設に入居する
- 家を相続して賃貸に出し、介護施設に入る
- 家を相続して、子どもに家族信託で家を預ける
…のライフプランは、妻が相続財産のほとんどを占める自宅を、相続するという前提で設計されてライフプランです。
そのため、相続人である長男や次男は、法定相続分の財産を得ることはできませんでした。
しかし、このライフプランでは、自宅を所有権と居住権に分割して、長男と次男が所有権を取得することで、法定相続分の相続財産を取得することが可能となりました。