成年後見制度をサクッと解説
成年後見制度の趣旨は、精神上の障害によって、事理を弁識する能力を欠く者が行った法律行為は、無効になるはずですが、それを証明することは難しく、類型化することにより意思能力がなかったことを証明できないとしても、その法律行為は取り消すことができるとして、その者の財産の保護を図ります。
また類型化することによって、取引の相手方に不測の損害を与えないようにすることです。
ここで、民法の条文をサクッと解説します。
成年被後見人
成年被後見人という言葉は、平成12年の民法の改正によって、できた言葉です。
その前は「禁治産者」、要するに財産を自分で治めることを禁じられた者という言葉が使われていたのです。
これは差別的ということで言葉が変わり、かつての禁治産者が、今の成年被後見人です。
実質的要件は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者。
事理を弁識する能力というのは、判断力です。
判断力を欠く状況、状況といっても常に24時間365日ではないかもしれませんが、大方、そういった判断力がないという方ということです。
言葉が悪いのですが、まだらボケということで、時には回復して、また時にはおかしくなって…ということがある場合も含まれるとお考えください。
これで成年被後見人かというと、そうではないのです。
次の形式的要件というものが、満たされなければなりません。
形式的要件は、一定の者(本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官)の請求により、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者。
つまり、家庭裁判所による後見開始の審判というものが、なされなければ成年被後見人とはならないのです。
家庭裁判所における審判が、不可欠なのです。
その家庭裁判所で、後見開始の申立てという、この人を保護するために、守るために、成年被後見人であると認めてくださいと、請求する者が限られています。
本人が入っていることが注目で、配偶者、4親等内の親族などのように限定的です。
それから成年被後見人の保護者、いわゆるサポーターが成年後見人というものです。
その者は、代理権と取消権、追認権を持つ法定代理人です。
それから法人でも、成年後見人になることができます。
成年被後見人が法律行為を行うにあたって、どういう話が出てくるかというと、原則、取消しができます。
無効ではありません。
意思能力がないのであれば別ですが、そうでないならば、成年被後見人が単独で行った行為は、取消しができます。
ただし日用品の購入、その他日常生活に関する行為については取消すことができません。
こういう成年被後見人と認定された、そういう審判を受けた方であっても、日常的な近所での、例えばコンビニ、スーパーなどでお買い物をすることは、普通にこれまでの動作として、変わりなくお出来になる方は結構いらっしゃいます。
そういった日常的な買い物もいちいち取消します…となったら、それはそれでまわりも迷惑でしょうし、本人も日常的な日用品の購入とかくらいであっても、ちょっと滞ってしまうという不都合も出てきてしまいます。
そういうことを考えると、日常的なものについては単独で、有効にしておくべきだろうということです。
なお成年被後見人が意思能力を欠く状況が、常にあるといえることで、単独で法律行為をさせるということは危険です。
よって成年後見人には、同意権はありません。
つまり「何かをしていいか?」と聞かれて、「いいよ」とお墨付きを与えたとしても、その通りの行動する保証がないということで、同意には意味がないと考えられています。
被保佐人
被保佐人は、かつて準禁治産者と呼ばれていました。
実質的要件は、精神上の障害により事理を弁識する能力、いわゆる判断力が、著しく不十分な者。
まったく無いわけではありません。
著しく不十分という、程度問題です。
ここはドクターの判断も必要になりますので、一概には言えませんが、言葉としては著しく不十分ということです。
これだけで被保佐人になるかというとそうではなくて、先程の成年被後見人と同じで、形式的要件、一定の者の請求により、家庭裁判所の保佐開始の審判を受けた者です。
ただし、成年被後見人に規定する原因がある者は除かれます。
つまり成年被後見人、後見相当であるならば、そちらに行くべきだろうと除かれます。
また、本人以外の者の請求によって、保佐開始の審判をする場合、本人としては、そんなのやめてくれと思ったとしても、本人の同意がいるのかというといらないとされています。
むしろ本人の保護になる…というふうにいえるからです。
著しく能力が不十分となっている以上は、保佐の制度が利用されることこそ、本人のためだと考えるからです。
保護者は保佐人です。
保佐人には、原則、代理権はありません。
ただ、家庭裁判所によって代理権が与えられるという…その旨の審判がなされることによって、代理権を持ちます。
なお、この場合は、代理権が与えられるという審判がなされるにあたっては、本人以外の者の請求の場合、本人の同意が必要とされます。
代理権付与の対象となる法律行為は、民法13条に列挙されるものには、特段限られるものではありません。
そして、取消権と追認権があります。
被保佐人の法律行為は、13条が規定しています。
被保佐人が重要な法律行為を行うときには、被保佐人の同意が必要で、それがないままなされた場合には、重要なことを勝手にやってしまったということで、取消しのチャンスが与えられるということになり、被保佐人が保護されるということになっています。
被補助人
被補助人は平成12年当時、禁治産者が成年被後見人、準禁治産者が成年被補助人へと名前が変わった際に、新しくつくられた類型です。
実質的要件は、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者。
著しくという言葉がありません。
ここが、保佐の制度との違いで、能力の程度は高い方です。
しかし、能力が不十分だからといって、被補助人になるのではなくて、形式的要件が満たされる。
すなわち、家庭裁判所における補助開始の審判を受けるということが必要です。
なお、成年被後見人、成年被補助人で行くべき場合には、そっちに寄りますので、そのような後見なり補助の原因があるものは当然除かれます。
本人以外の者の請求によって補助開始の審判をする場合は、本人の同意が必要になります。
これが、被保佐人との違いです。
被補助人は能力の程度が高いので、自分の意思というものがまだ強くあり、それは十二分に尊重されるべきだということです。
余計なことはやめてくれというふうに思う方がいれば、その人の意思は尊重されるべきだという発想です。
そして保護者は補助人で、原則代理権はありません。
本人以外の者によって、代理権付与の審判がなされるときには、本人の同意が必要とされています。
そして取消権、追認権などについてはこのあと、被補助人の法律行為を見ることにいたします。
13条1項は、被保佐人が保佐人の同意を得ずに法律行為をなした場合、取消しができるというラインナップです。
この事項の特定の一部について、同意権付与ができます。
全部を対象にするのなら、保佐の制度で行くべきなのです。
部分的にサポートがいるという話なので13条に掲げられたものの一部についてとなります。
そして、本人の同意が必要です
補助人は、同意権が付与された行為について、取消権と追認権を持つことになります。
そして、同意権の付与の審判というものがなされた場合の補助人、そのサポーターという者がいる場合、その同意権付与の審判がなされて同意権を持っている補助人に、サポートされる被補助人は、制限行為能力者です。
補助開始の審判が出ただけでは、あるいは代理権付与の審判がなされたというにとどまる場合には、被補助人は制限行為能力者ではありません。
同意権が補助人に与えられた場合には、そこでの被補助人は制限行為能力者となります。
制限行為能力者の相手方を保護する制度
今度は角度を変えて、相手方がどういう風に保護されるのか?…ということです。
一つ目は相手方の催告権、取消しがなされるかもしれないという立場に置かれる相手方が、制限行為能力者側に「どうするんですか?」「取消すんですか?」「認めるんですか?」と尋ねたいわけです。
そこで、催告というものを行います。
そこで、制限行為能力者側から返事がなかった場合にどう扱うかというと…
返事があれば、それによります。
返事がなかった場合、その返事は、催告を1ヵ月以上の期間をおいて、答えるように、催告をするとなっていますので、必ず1ヵ月は待たなければいけないのですが、1ヵ月後には返事をくださいと言っていたにもかかわらず、結局その期限までに返事が来なかったとなったときに、返事がないことをどう扱えばいいのか?…というと、基本的には、法定代理人、それから能力を獲得した、かつての制限行為能力者宛に、催告をして、返事がなかったならば追認みなしです。
しかし、制限行為能力者のままであるところの被保佐人、被補助人に対して催告をして、返事がなかった場合は、取消しみなしです。
もう一つは、制限行為能力者が詐術を用いた場合、これは騙したような場合、ウソをついた場合です。
もはや取消しのチャンスを与えるという形で、保護する必要はないということです。
いわゆる制裁です。
そして取消権者の中には、制限行為能力者本人もいます。
取消しができる行為を行った、本人も取消権者です。
取消しの効果は、無効だったと扱われます。
取消さない以上は、有効です。
取消したときに、初めから無効だったという扱いになります。
無効だったとすると、何かを買った場合、それを返す必要があります。
返すべき財産は「現存利益で足りる」。
現に利益を受けている現存利益で足りるといわれています。
判例では、生活費には現存利益はあることになって、ギャンブルなどに浪費してしまった場合には、現存利益はないとされています。