介護職員の離職率が高いワケ
多くの利用者が介護保険料を使わなくては損だという考えで、制度を利用しているのではないでしょうか?
得をする老人ホームは存在しません。
損得ではなく、向き不向き、相性が良い悪いと考えるべきです。
介護保険制度は、相互扶助という概念で成り立っています。
保険料を払っているのだから、権利があるのだからと介護現場に過度の負担をかけ過ぎると、自己負担額が膨れ上がり、よほどの富裕層しか介護保険制度を使えなくなります。
給料は安いのか?
介護事業者の売上のほとんどは、介護報酬です。
介護報酬は、国が設計した制度であり、国の管理下で運営されている関係から、ある程度の賃金を支払うことは可能です。
老人ホーム事業者は、介護事業者として認定されるためには、法人格を有しなければいけません。
法人格を有するということになれば、そこには組織が存在し、ほとんどの組織はピラミッド型で運営されているのが普通です。
行かなければ賃金は上がりません。
さらに、現在は高齢者の増加に伴う社会からの要請も手伝って、事業拡大をしている事業者が多く、上のポストは多くが空いている状態です。
しかし、介護業界には、ポストがあるにもかかわらず、上に行きたくない人と、個人的な事情があって、上に行くことができない人が多く存在しています。
その結果、10年間働いていても賃金は25万円という人が存在してしまっているということなのです。
つまり介護業界が、他の業界と比べ賃金が低い業界なのかを判断するためには、諸事情があって上のポストに行かない人、行きたくない人を除いた人たちの賃金で、考える必要があります。
中には、上のポストになると仕事が大変になるだけで、魅力を感じないので昇格する気になれないという考えがあること自体が、多くの賃金を得たいと考えている職員ばかりではないということを示しています。
多くの介護職員は、昇格という会社からの打診を自らの意思で断り、介護職員として働き続けています。
給料が安い理由
男性職員は結婚が決まると退職する。
理由は、介護職員の給料が安く、生活がままならないからということです。
介護職員の離職率は、きわめて高い。
賃金が安い、仕事がきつい、
…という理由を、多くのメディアがあげています。
例えば、未経験の40歳男性の介護職員としての月給が25万円だとします。
確かに低いと感じますが、どこの業界で40歳の未経験者を雇用してくれるのでしょうか?
むしろ、応募資格すらないような気がします。
有料老人ホームの場合、3年間ぐらい一般介護職として現場の最前線で働き、その後は、介護リーダー、介護主任またはケースワーカーなどの上級職に昇格して、月給は30万円程度に増えていきます。
その2年後ぐらいには、ホーム長などの管理職に就任するケースも多く、年収ベースで500万円程度は確保することができます。
なお、現存する有料老人ホームや特別養護老人ホームの中には、ホーム長、施設長クラスで年収800万円から1,000万円程度を確保することができる事業者も存在しています。
中には、銀行や商社でライバルが多く、上手く昇格や昇給ができなかった人が、出世だけを考えて、あえて介護業界に転職し、見事思惑を達成している人も存在しています。
確かに、金融機関や商社、マスメディアなどと比べれば、介護業界の賃金は総じて低いようですが、世間で騒がれているほど悲惨な賃金状態ではなく、さらに賃金を上げるためのチャンスは、存在しているのが現実なのです。
介護の仕事はキツイのか?
介護の仕事は、身体介助業務と生活支援業務に分けることができます。
身体介助とは、入浴、食事、排泄といった、人が生きていくために必要不可欠な行為を適切に介助し、生きていくこと自体を直接支える仕事です。
多少の体力は必要ですが、主導権は介護職員側にありますので、自分の考えや方針に沿って仕事を進めることができます。
入浴介助は、入居者の状態によっては、少しきつい仕事ですが、機械や道具を使うケースが多く、身体的なダメージはそれほどでもありません。
しかし問題は、介護職員を奴隷か風俗嬢のような扱いをする入居者の存在です。
お湯の温度が熱いとか温いとか、体のこすり方が強いとか弱いとか、細かく無理な注文をつけてきたり、わざと股間を洗うことを強要したり、清潔保持の限界を通り越している入居者も存在します。
また、意外にも女性入居者から男性介護職員に対するリクエストの方が多いようです。
中には、自分が気に食わないと手を上げて殴りつけたり、蹴とばしたりと、暴力をふるう入居者も存在します。
老人ホーム内で起きている虐待や事件には、このような背景が見え隠れしています。
長年の鬱積した不満が爆発して起きている可能性も否定できません。
排泄介助は、慣れるかどうかの違いがあるようですが、意外と早くに慣れてしまうようです。
生理的にダメな人は、無理という結論を出しますので、汚い、臭いといったことが気になる職員はいなくなるということです。
仕事を辞める本当の理由
生活支援業務とは、その人がその人らしく生きていくこと、充実した毎日を送ることができるようにサポートする仕事です。
肉体的な重労働はほとんどありません。
しかしその分、入居者の話し相手など、礼儀作法や言葉遣い、入居者の好みや考え方に気を遣い、自分を相手に合わせていかなければスムーズな仕事ができない業務です。
老人ホームで一番大きな生活支援介助は、レクリエーションですが、多くの介護職員は苦手としています。
なぜなら多くの入居者、それも認知症など、さまざまな精神的な疾患を抱えている高齢者を相手にレクリエーションを先導することは、それなりの技術や経験や知識が必要で、専門的な教育を受けていない者にとっては至難の業だからです。
また、買い物や病院受診の同行も介護職員にとっては、得手不得手が出てくる業務です。
いくら話しかけても反応が無い入居者や、制止を聞かず傍若無人に振る舞う自分勝手な入居者に対し、多くの介護職員には、なす術がありません。
介護の仕事とは、体力を使う事業というよりも、頭を使う仕事であり気を使う仕事です。
肉体的に大変だから仕事を辞めるとか、賃金が少ないから仕事を辞めるというのは、介護職員が仕事を辞める理由の本質ではありません。
会社のアンケートや行政が実施する職業実態調査などの場合、このような面倒な話をする気にはならないので、賃金が安い、体力的にきついという理由で退職を決めたと回答をするのです。
介護職員がいなくなる
多くの老人ホームは、新規出店を検討する場合、入居者確保の心配ではなく、職員確保を心配します。
職員不足は経営を直撃し、これが原因で倒産に追い込まれるホームも発生しています。
介護支援事業は、行政処分に基づき実施される「かわいそうだから面倒をみてあげよう」という行政の措置でした。
そこに民間事業者が参入し、介護支援事業はサービス業に大転換したのです。
しかし、サービス業という考え方に対し、正しい教育ができなかったこともあり、中途半端のまま「お客様は神様」「言われたことは何でもやる」という風潮になり「神様の言うことが聞けないのか」という極端な変質をし、結果、職員が疲弊し、退職を加速させたのです。
「おかしな利用者、おかしな家族を入居させると職員が辞めてしまい、ホーム運営に支障が出るので、火種になるような入居者はお断り。」という話を聞くぐらい、現場では、入居者やその家族による無理難題で疲弊しているのです。
そして行政側も介護保険事業のことを、サービス、契約と呼び、利用者様、お客様という言い方を奨励し、必要以上に尽くすことが重要だという風潮をつくりました。
度を超えた「お客様は神様です」の奴隷的な対応が、入居者を勘違いさせ、無理難題を言われた結果、職員が疲弊していくことを理解しなければいけません。
必要以上に介護職員を追いつめていけば、介護職員がこの世からいなくなるということに気がつかなければいけません。