改正相続法は知らないと損をする
最もトラブルが多い民法の相続法は、2年がかりで約40年ぶりに改正されました。
高齢化社会が進む中、家族関係や経済状態の変化に伴い、さまざまな問題が見えてきました。
改正された相続法では、故人の預貯金から仮払いが可能になり、高齢の配偶者に配慮した配偶者居住権など、残された人の生活を守る傾向が強くなっています。
大切なお身内がお亡くなりになった時、故人を偲ぶ時間をつくれるように法律改正のポイントを解説します。
相続法改正で良くなったこと
10年より前の生前贈与分は遺産に加えなくてOK
改正前は相続人の誰かが、故人が亡くなる前に遺産を受け取っていた場合、それらも含めて遺産として分割していました。
改正後は、亡くなった日から10年より前の贈与であれば、遺産の対象から除外されることになりました。
この改正によって、昔に遡って紛争となることを避けられる他、故人が前もって遺産を多く渡したい人に生前贈与することも可能になりました。
生前贈与は税金対策になる
10年より前に生前贈与をしていれば、相続税はかかりませんが、贈与税を納めることは必要です。
しかし財産を譲り受ける人は、毎年110万円以下の非課税枠が使えます。
1年ごとに、110万円以下の贈与であれば、税金はかかりません。
つまり10年前までに、毎年110万円以下の生前贈与をしていれば、贈与税も相続税もかからないということです。
ただし贈与の度に、当事者間で贈与契約書を作成する必要はあります。
この贈与契約書の書式に、決まりはありませんが、署名と日付は手書きで、押印は実印をお勧めします。
遺言書の全てを手書きしなくてOK
以前の自筆証書遺言書は、全ての文字が自筆でないと無効でした。
不動産、預貯金、株式など…
遺産が多い人ほど、財産目録への記載作業は困難だったのですが、改正後の財産目録はパソコンなどで作成することが可能になりました。
不動産の登記事項証明書などは、コピーの添付でも有効になり、代理人に作成を依頼することができます。
ただし、本人の署名と押印は、必須です。
結婚20年以上の夫婦の家は遺産分割の対象にならない
住居用不動産を夫が妻に遺贈、または生前贈与した場合、改正前は遺産分割時に家を遺産に含めて、相続人で再分配していました。
改正後は、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産を遺贈や生前贈与した場合、分割する遺産への加算が免除されます。
配偶者は家の権利を持ったまま、その他の遺産を法定相続分通り分割できます。
介護した人は金銭請求ができる
これまで故人の長男の妻といった相続人以外の人が、故人の介護に尽力したとしても、遺産を受け取る権利はありませんでした。
改正後は、相続人ではない親族が無償で故人を介護し、遺産の維持増加に貢献した場合、相続開始および相続人を知った時から6ヵ月、または、故人が亡くなった日から1年までの期間であれば、相続人に対して金銭を請求することができます。
相続人の誰かが使い込んだ遺産も遺産分割に含まれる
遺産分割は、相続の時に存在する遺産を分配する手続きです。
改正前は分割前に相続人の誰かが、遺産を勝手に持ち出した場合、持ち出した人物を含めた相続人全員の同意がなければ、持ち出した遺産を遺産分割に含めることができませんでした。
改正後は、遺産を持ち出した相続人以外の同意で、持ち出した遺産も分割に含められるようになりました。
故人の預貯金から仮払いができる
金融機関は、持ち主の死亡届けがあった時点で口座を凍結します。
これでは、故人の葬儀費用や相続人の生活費の支払いが困難です。
改正により、相続人は預貯金のうち、一定の金額であれば、遺産分割前でも仮払いを受けることができます。
遺言執行者の権限が明確化
遺言書で、遺言の執行に必要な手続きをする遺言執行者を指定する場合、遺言と相続人の利益が相反した時には、トラブルが起こりがちでした。
改正により、遺言執行者の権限が、故人の意思を実現するためと明確化されました。
遺言を主張するために登記が必須
相続させるとの遺言は効力が強く、直ちに特定の相続人に遺産の所有権が渡ります。
不動産なら登記がなくても権利を主張できていましたが、改正後は遺言があっても、法定相続分を超える部分に関しては、名義変更の登記が必要になりました。
遺留分は金銭で支払い
特定の人に遺贈や生前贈与がされていても、相続人が最低限相続できる遺留分を主張することができます。
原則として、現物での返還しか求められないので、家なら一部を共有することになります。
改正後は、遺留分を原則、金銭で相手に支払います。
特別寄与料の請求
特別寄与者の範囲
特別寄与者になれるのは、相続人ではない親族です。
この場合の親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指します。
親族が対象であるため、家政婦や介護士などが、故人の介護や看病をしていたとしても、特別寄与者には該当しません。
特別寄与料の上限
特別寄与料の請求には、上限額が定められています。
特別寄与料の請求の上限額は、
相続開始時の財産から、遺贈の価額を控除した残額
…です。
遺贈とは、遺言により財産を他人に無償で譲ることをいいます。
故人が1億円の財産のうち、半分をどこかの団体に寄付するという遺言書を作成していた場合には、財産の総額から遺贈の価額を控除した5,000万円となり、それが特別寄与料として請求できる上限額となります。
なお、特別寄与料の支払いに関しては、法定相続人が法定相続分に応じて、支払う義務があります。
特別寄与料の具体的な算定方法は複雑なので、弁護士や司法書士に相談してください。
特別寄与料の請求方法
特別寄与料は、各相続人との話し合いで決まりますが、話し合いがまとまらない場合、あるいは、話し合いができない場合には、家庭裁判所に寄与料を定める処分を請求します。
家庭裁判所への請求は、特別寄与者にあたる人が、相続の開始を知った時から6ヵ月以内、または相続開始から1年以内に行う必要があります。
特別寄与料を請求する場合、生前に介護などの特別な寄与があったことの証明が必要になる場合があります。
日頃から介護記録簿や、写真、動画、経費の精算書などを保管する必要があります。
遺留分の権利について
遺留分が認められる相続人
遺留分が認められている相続人は、兄弟姉妹を除く法定相続人と民法で定められています。
つまり相続人のうち、配偶者、直系卑属、直系尊属が遺留分を認められているということになります。
ただし、遺留分を請求するには、実際に遺留分を侵害されていなければいけません。
法定相続分以上の遺産を取得している場合には、基本的には遺留分を請求することは難しいのです。
相続人 | 遺留分全体の割合 | 各相続人の遺留分割合 | |
配偶者 | その他の相続人 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | ━ |
配偶者と子 | 1/4 | 1/4を人数で等分 | |
配偶者と親 | 1/3 | 1/6を人数で等分 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | なし | |
子のみ | ━ | 1/2を人数で等分 | |
直系尊属のみ | 1/3 | ━ | 1/3を人数で等分 |
兄弟姉妹のみ | なし | ━ | なし |
遺留分は、配偶者や子どもが法定相続人の場合は、相続財産の1/2、法定相続人が直系尊属だけの場合は、相続財産の1/3を請求すること
ができます。
遺留分を請求する方法
侵害された遺留分を請求するためには、遺言書により財産を相続した人に対して、遺留分侵害額請求をする必要があります。
遺留分侵害額請求を相手に通知する場合には、内容証明郵便を利用することをお勧めします。
内容証明郵便は、相手に送った内容の控えが郵便局でも保存されます。
また、配達証明をつけて送れば、相手に配達された日も証明することができるため、何時どのような内容で、遺留分侵害額請求の通知をしたのかを証明することができます。
内容証明は、郵便局の「e内容証明」で、インターネットから送ることも可能です。
相手に遺留分侵害額請求を送り、具体的な遺留分金額を話し合い、合意書を作成して遺留分を金銭で受け取るという流れになります。
もし、相手が話し合いに応じなかったり、話し合いをしても合意できなかった場合には、弁護士に相談して、交渉を行なってください。
遺留分の放棄
遺言等によって、遺留分が侵害された場合に、遺留分侵害額請求を行い遺留分を取り戻します。
遺留分の放棄とは、この権利を放棄するということですが、相続発生後に遺留分を放棄する必要はなく、遺留分侵害額請求をしないということです。
しかし、さまざまな事情により、遺留分はいらないと言う相続人もいます。
例えば、他の人が生前の被相続人の介護をしているような場合では、その功労に報いるために、遺留分をあらかじめ放棄することもできます。
この場合は相続の開始前、被相続人の生存中に、家庭裁判所への申立と許可が必要になります。