相続税の失敗と処方箋
税務署が手取り足取り教えてくれると思ったら大間違いです。
わざわざ税務署が、税収減となるテクニックを労力かけて納税者に教えるはずがありません。
むしろ、虎視眈々と相続税を狙っているといってもいいでしょう。
税負担から身を守るためには、自分で賢く節税をするしかありません。
実は親の死後、相続税の手続きで損をしている人は非常に多いのです。
損をしないためにも最新の情報を基に、知識をアップデートしておきましょう。
目次
相続税の申告と納付そして落とし穴
相続税の申告書は、相続開始の翌日から10ヵ月以内に提出しなければいけません。
提出が1日でも遅れた場合は、無申告加算税として、本来の5%が加算されます。
さらに税務調査後の提出となると、20%も加算されてしまうのです。
提出先は被相続人の住所地を所管する税務署です。
もめていなければ、相続人全員が一つの申告書に連署します。
気を付けなければいけないのは、申告書と同様、相続税の納付期限も10ヵ月以内であることです。
申告書を提出して安心し、そのまま納税期限を過ぎると、最大で年利14.6%の利息を延滞税として支払わなければいけません。
膨大な書類作成を10ヵ月以内に行う
相続税の申告においては、数多くの書類が必要になります。
税務署での相談においてさえ、遺産分割協議書、遺言書、所有不動産を証明するもの、土地の賃貸借契約書、住所地図、実測図、預貯金の残高証明書、被相続人や相続の戸籍謄本といった書類の持参を求められます。
一般の人がこうした手続きを理解し、全ての書類を集めて相続税法の規定に従って適正に評価していくことは、相当、骨の折れる作業です。
遺産分割協議が紛糾して話しがまとまらず、そのまま相続税の申告期限が近づいた場合は、未分割による申告を行います。
これは、取りあえず法定相続人たちが、遺産は手付かずの状態で、法定相続分の通りに相続をしたものとして申告を行うことです。
そして未分割による申告を行った後で、話し合いがまとまれば、その内容で改めて申告を行うことができます。
相続税の申告と納税が済めば、相続に関する一連の手続きは終了です。
税務調査のウラ側
税務調査には、強制調査と任意調査があり、前者は悪質な相続税逃れを取り締まるべく、強制的に行われるものです。
また任意とはいえ、拒否することはできませんので、協力的な方が心証は良いでしょう。
実地調査は、相続税の申告から1〜2年後の秋と忘れた頃に来ることが多く、事前連絡は主に電話で行われます。
調査官の聞き取り調査は、雑談のような質問でも、ほぼ全てに真の目的があります。
その質問の目的は、申告漏れ財産の有無と隠蔽が、意図的であったのかどうかを知ることです。
調査官は実地調査前に、事実の大半をつかんでいます。
ターゲットとなりそうな人に対し、生前から調査を行うことで、どんな財産が幾らあるのか知っているのです。
そのため、調査で絶対にウソをつかないことです。
仮装や隠蔽とみなされれば、最も重いペナルティーである重加算税だけでなく、財産を隠していたのが配偶者の場合、その軽減措置までも受けられなくなる可能性があるからです。
税務調査で狙われるケース
- 長期間、出金記録がない預金通帳や、はるか昔に購入した不動産がある場合、家族はおろか、本人も忘れているケースが多く、過少申告をしてしまう。
- 税務署は事前に、収入から相続財産をある程度計算していますので、相続財産が収入の多さに見合わない場合、目を付けられる。
- 専業主婦など収入が低いにもかかわらず、多額の預貯金や株式などを持っている場合は、名義預金、名義株を疑われます。
- 保険料の支払者と契約者が異なる生命保険がある場合、名義保険を疑われます。
- 多額のタンス預金は、悪質な隠蔽と取られやすい。
- 別荘や高級外車などの高額品の売買が多いのは、自ら資産家と公言しているようなもので、税務署に目を付けられやすい。
- 美術品や骨董品のコレクションは、鑑定額が分かりにくく、高額な品があれば申告漏れになりやすい。
- 本来、仏具は非課税ですが、高価な仏具、純金製などの場合は、相続財産とみなされることもある。
税務調査官の質問の意図
- 「故人の印鑑や通帳、権利書を見せてほしい」…保管場所と、そこに隠している財産の資料などがないかを知りたい。印鑑の場合は朱肉の乾き具合から使用時期を調べる。
- 「故人はどのように亡くなったのか?」…入院の有無や時期、病院名などを知りたい。
- 「故人の職業や趣味は何か?」…収入や支出先を知りたい。
- 「日記や遺言書はあったか?」…ひそかに残そうとした財産はないかを知りたい。
- 「故人の子や孫の進学先、家族構成、住まいなどを教えてほしい」…家の購入資金や進学、結婚などにおける資金援助(贈与)があったのか知りたい。
- 「相続を受け取った人の仕事と、その家族の仕事は?」…預金などの金融資産が、故人の名義預金ではないかを知りたい。
相続税対策の失敗事例
子供や孫名義の預金口座
生前贈与は、年間110万円までなら税金はかかりません。
相続発生時に問題になるのは、子供や孫名義の預金口座が、実際には贈与されていなかったものとして、税務署が名義預金と判断したときです。
通帳も印鑑も祖母が持っていたため、名義人である孫は、口座のお金を自由に使えない状態にあった場合、管理権が孫に移っていたとはいえません。
すると、この貯金は祖母の財産とみなされ、相続財産に加えられて相続税の課税対象となってしまう可能性が高いのです。
相続税の税務調査において、名義預金は、税務署が特に目を光らせている財産なのです。
税務署に管理権を移したと判断されるためには、子や孫が普段使っている預金口座に振り込みます。
ただこれでは、贈与する側が望んだ目的に使われず、無駄遣いで消えてしまう可能性もあります。
それを防ぐためには、子や孫の名義で年金保険に入るのです。
例えば、20年後に年金を受け取ることができる、年間100万円の保険料の年金保険を契約します。
毎年100万円を子や孫の普段遣いの口座に振り込み、年金保険料がそこから引き落とされるようにするのです。
これなら、子や孫が贈与されたお金から保険料を支払うということになり、無駄遣いをして消えることはありません。
なお、税務調査の指摘を受けたときに、その実態に気付きながら名義預金ではないと言い張り、最終的には名義預金だと判断されてしまうと、ペナルティーの加算税が課される場合があります。
専業主婦のヘソクリ
税務当局は家事労働の対価を認めていません。
そのため、結婚前の預貯金であることや、夫から贈与されたという明らかな証拠がなければ、専業主婦のヘソクリは、夫の稼ぎを妻が預かって管理していた夫の財産とみなされ、相続財産に計上しなければいけません。
一方で、配偶者は法定相続分、あるいは1億6,000万円までの遺産については相続税が課されない特例があります。
仮に数千万円のヘソクリがあったとしても、隠さずに夫の財産と認め、相続した方が良いのです。
ここで隠してウソをつくと最悪の場合、妻が仮装・隠蔽した悪質なケースとして重、加算税の対象となる上、配偶者の特例さえも使えなくなってしまうことがあるのです。
父の預金から葬式代を引き出し
葬儀費用は債務として相続財産から控除できるため、葬儀費用として相続財産から控除したが、現金としては相続財産に計上しなかったケース。
これはよく犯す間違いなのですが、現金500万円、葬儀費用マイナス500万円として、プラスマイナスゼロになるように申告しなければいけません。
死亡日にはまだ存在していた現金500万円を申告せずに、葬儀費用だけをマイナス500万円として差し引いてしまうと、税務署の指摘を受けることになります。
葬儀費用をマイナス500万円として控除している以上、その元となった、死亡日に存在した現金をプラスの財産としなければ、現金隠しとして重加算税の対象とされてしまうことがあるのです。
死亡日直前に引き出すとバレやすいので、毎月少しずつ引き出して、タンス預金しておけば相続財産から除外されるのでは?…
という安易な考えも危険です。
これは、明らかな脱税行為とみなされます。
改正相続法の新制度により、故人の凍結口座から一部引き出しが可能になり、葬儀費用や家族の生活費などを念頭においた、現金の事前引き出しはしなくてもよいのです。