デジタル遺品これから対策すべきコト
デジタルの世界はとても変化が激しいので、5年後には、通用しなくなっている遺品の対処法や、ゼロから処置を考えていかなければならない、新興サービスが生まれたりもするでしょう。
例えば、仮想通貨がここまで流行し、スマートフォンのセキュリティがここまで向上するとは、5年前に予測できていた人は、そんなにはいなかったでしょう。
しかし今やれる対策や準備は、決して無駄にはなりません。
変化は少しずつ起こるからです。
そして全体を知ることで、予測もしやすくなるからです。
70代の半数以上がインターネットユーザー
遺品全体で見ると、デジタル遺品のウエイトはまだまだ低く、問題になるのは40代や50代の比較的若い方が、お亡くなりになったというケースです。
しかし年代ごとのデジタル親和性は、確実に上がっています。
60代では4人に3人、70代も半数以上が利用しています。
これは年配の方が誰でも率先して、デジタルに親しむ流れになっているわけではなく、利用するハードルが下がり選択肢が増え、デジタルを利用する機会が、いつの間にか多くなっているというのが実状だと考えられます。
デジタルに触れる機会が増えた理由は、いくつかありますが、立役者はスマートフォンであることに疑いの余地はありません。
直感的に扱えるスマートフォンは、デジタル機器に苦手意識を持っていた人たちを取り込み、インターネット利用者の層を大きく広げました。
そして現在スマートフォンの台頭は、Internet of Thingsの流れを加速させています。
IoTは帰宅する10分前に、家のエアコンのスイッチをインターネット経由でオンにしたり、店舗の商品情報から在庫を確認したり、財布に通信チップを入れておくことで、紛失した際にGPSで位置情報を特定したりと、あらゆるモノがインターネットに繋がる環境や状態を指す言葉です。
その多くの窓口に、スマートフォンが使われているのです。
腕時計のように身につけて、手元で通話やメールチェックするとともに、脈拍や運動量などのモニタリングや買い物の決済もできたりする、ウェアラブル端末も流行っていますが、これもスマートフォンとの連動を前提で、設計している製品が大半なのです。
あらゆるモノがデジタル化
国や自治体もデジタル化に前向きです。
2015年に始まったマイナンバー制度も、インターネットを介したサービス活用の道筋をつけています。
国税庁は、インターネットを使った納税システムe-taxの普及に注力しています。
医療福祉面を見ても、2016年の医療制度更新によって、スマートフォンにインストールできる、電子版のお薬手帳が公に認められるようになったり、電子版母子手帳の利用が進んだりもしています。
紙を媒体とするのが当たり前だった重要な書類が、デジタルの形でやり取りされるようになるのです。
この流れは、ずいぶん前からありましたが、ここ数年の間に、いろいろな場面で目立つようになりました。
スマートフォンひとつあれば、持ち主のエアコンや財布、自宅の鍵からクレジットカード番号、公的な身分や健康情報まで、まとめて手繰り寄せられる、そんな世の中になりつつあります。
少なくとも遺品になった時の情報価値は、メインで使っている財布と同じか、それ以上と言えるでしょう。
この流れの中には、通貨の電子化もあります。
Apple Payなどのスマートフォンを使って決済する仕組みや、インターネットを介してカーシェアや民泊などのビジネスを展開するシェアリングエコノミーなど、世界では、フィンテックが注目を集めています。
そして、金融サービスに大きな変革を与えそうなのが、仮想通貨です。
数年後、あなたや家族の財産は、実体として触れられるモノよりも、スマートフォン等で確認できるデジタル資産に代わってしまうのです。
より強固な端末ロック
今後、情報端末には、持ち主に関する重要な情報がますます集約され、そこに高度なセキュリティを求めるのは自然の流れです。
今は安価なスマートフォンでも、ストレージを暗号化するのが当たり前になっています。
パソコンでも暗号化設定が、選べるモノが増えています。
特に、屋外に持ち出すタイプの端末は、盗難にあっても、簡単には中身を触られないような設定が、出荷時からなされるようになる見込みが高いのです。
しかし、いくら厳重がよいとはいっても、持ち主が解錠に手間取るようなら、利便性が損なわれてしまいます。
そこで注目されているのが、指紋認証や虹彩認証などの生体認証です。
音声や心臓の鼓動による認証技術も製品化されていて、バリエーションは増えていきそうです。
近い将来、生体認証キーが常識になるかもしれません。
それでも、パスワードやパスコードなどのキーもサブとして存続すると思いますが、生体認証中心で使っていたら、持ち主でさえ忘れることもありそうです。
しかし生体認証キーは、本人から持ち出すことはできませんが、万一の際に家族が頼れるのは、そのサブキーのみとなります。
持ち主にとっては手軽にアクセスできて、高いセキュリティに守られるというメリットばかりの環境になっていきそうですが、万一の際の家族の立場では、問題解決の難易度が、上がっているようにも見えます。
そうなると、遺族向けの救済措置を強化するメーカーやサービス提供者も、おそらく増えていくと思いますが、業界が標準化していくのかは、まだ未知の世界なのです。
承継充実と生前共有の二極化
デジタル分野の多くのサービスは、まだ死後対応が未整備であったり、実績不足であったりすることが多いです。
そのため提供側に、全てを委ねるということは、厳しいところがあります。
また法律に頼るにしても、これまたデジタルに最適化しているとは言えず、むしろ苦労が余計にかかるのかもしれません。
しかし、デジタルを取り巻く環境は、大きく変化しています。
一般論として、持ち主の世代交代ラッシュが起きる業界は、相続関連の枠組みが一気に整備されるということもあります。
遺品を取り巻く煩雑さは、過渡期ゆえという部分が含まれているのです。
この先のデジタルの世界は2つのトレンドが見て取れます。
ひとつは、遺族への承継を認め、引き継ぎのサポートを提供する動きです。
インターネットのサービスは、通信の秘密を何よりも重んじ、契約は一身専属性とするのが当たり前でした。
しかし、法定相続人に承継できるというスタンスに、転換する事例が目立つようになりました。
もうひとつは、アカウントの生前共有を認める動きです。
運営側は死後対応に関与しないが、利用者側で自由に対応してくれて構わないということです。
膨大な利用者を抱えていて、個別対応には限界があるという、世界展開しているサービスでよく見かけます。
生前共有が許されるのなら、もしもの時にアカウントとパスワードが伝わるようにするだけで、家族はルール違反の不安を抱えることなく、最小限の手間で作業を済ませることができます。
しかし持ち主が、しっかり伝える導線づくりをしないと、家族を手助けすることはできません。