身だしなみと”ならわしごと”への対応です。

新しい死後ケアの提案と更衣の手順を、case-by-case

そして、step by step で解説をします。

身だしなみ

身だしなみ

ご遺体と認識する要素

横たわっている身体を前にして、私たちが遺体だと認識する要素は、主に次の3点ではないでしょうか?

  1. 心電図など機器のデータと死亡宣告
    臨終の場面では、心電図や脈を示すモニター画面で心臓が止まったことを目で確認し、医師が瞳孔反射など死亡診定のためのチェックをする様子を目にし、次に医師の死亡宣告の言葉を聞きます。
    「〇時〇分、ご臨終です。」
    ご家族はこれで死を知り、身体も遺体になったことを知ります。
  2. ならわしごと
    顔に四角い白い布をかける。
    手を腹上で組ませる。
    和服ならあわせを左前にする。
    胴の紐をたて結びにする。
    これらは、従来の死後処置の際に行っていたならわしです。
    「この人は遺体になりました」
    「これは遺体ですよ」
    …と周囲に表明するための、身体への死の印づけと言ってよいでしょう。
    自宅で看取り、葬儀も行っていたころには、この印づけが必要だったのでしょう。
  3. 死後の身体変化
    臨終後の身体は時間経過とともに刻々と変化していき、外見にも変化が表れます。
    死後ケアを行うころには、蒼白化によって血色が失われ、その後、死後硬直が進み外見にも微妙な影響をもたらします。
    腐敗が進んで顔や身体が腫れたり、腹部が膨らんだりもします。
    また、黄疸が出ていた人は肌色が変化します。

ご家族はご遺体をどう見ているか?

死後ケアの段階では、「ならわしごと」の死の印づけは行う必要はありません。

帰宅後の儀式に向けた準備の段階で行えばよいのです。

死後ケアの多くは、臨終を迎えて間もない時間帯に行われます。

そのときのご家族は、頭で亡くなったことは十分理解していても、生きているときと同様に見ています。

ご家族の気持ちを考えると、死後ケアの段階で、ならわしごとを行うのは、酷な行為ではないでしょうか?

また「死後の身体変化」については、お化粧や死後変化をおさえる冷却などが行われますので、現代では目を覆いたくなるような死後変化を目にすることは少なくなっています。

しかしご遺体は、生体とは決定的に印象が違います。

特に顔は、穏やかに整えることで「生きているみたい」と、ご家族の声が聞かれることはありますが、それはあくまで「みたい」なのです。

しかしご家族の気持ちは、まだ、心臓が止まっただけなのです。

下半身への綿つめ

下半身に綿つめを、行わないことについて、

つめないのですか?

…と聞かれたら?

私どもでは、お尻に綿をつめない方針です。

つめなくても出る心配は、ないのですか?

 

たとえ綿をつめても、出るときは出てしまうことがわかったのです。また、出る心配がある場合には、紙オムツなどを肛門に隙間なく当てた方が、栓の役割を果たすこともわかりました。〇〇さんの場合は、出る心配は無さそうですから、そのまま下着をつけていただいても問題ないと思います。

そうですか。でも、もし出たら困りますから、紙オムツを当てておいてもらえますか?

では、そうしましょう。もしご帰宅後に紙オムツが汚れた場合は、ゴムかビニールの手袋をして新しい紙オムツに取り替えて、手袋と汚れたオムツは袋に入れて捨ててください。

出ているかどうか、頻繁にチェックした方がよいのですか?

いえ、神経質になる必要はありません。お下のほうから、臭いが気になったときでよいでしょう。

肛門への綿つめは行わず、便が出る心配がある場合は、肛門に紙オムツか紙パッドを当てます。

肛門に隙間なく当て、しっかりと下着を履いていただきます。

また、T字帯は、移送中にずれてしまうことがあります。

臨終直後は、死後の弛緩が関係して、便が出る人も少なくありません。

しかしその後は、たとえ腸内に便があるとしても、排便に必要な反射や腸の蠕動運動などの条件がそろわないので、基本的に便は出ません。

しかし、生前から出やすかった、あるいは腐敗が進み、内圧が高まったなどにより、死後も便が出る場合があります。

口や鼻への綿つめ

口や鼻への綿つめを、行わないことについて、

つめないのですか?

…と聞かれたら?

鼻と口への綿つめも、基本的には行わない方針です。

鼻や口につめるものだと思っていましたけど…

…など、ご家族が、詳しく説明を聞きたい様子なら、

以前はつめておりましたが、ケアの視点で見直した結果、つめないことになりました。

どうしてですか?

ご遺体は時間とともに変化し、自然現象として口や鼻から体液が流出する場合があります。綿つめは主に、その流出を堰き止める栓の役割として行われていましたが、お尻の方と同様に、綿は栓の役割を果たさないことがわかったのです。もし、「ならわし」として綿つめをご希望の場合は、お帰りになったあと、葬儀社のご担当の方に相談なさってください。

わかりました。でも、帰る途中に口や鼻から出血して、汚してしまったら、どうしましょう。

その場合は、タオルやティッシュで拭って、ビニール袋に入れて捨ててください。

状況によっては避けられない漏液に遭遇したご家族は、その事実がつらい異常事態として、心に残ってしまう恐れがあるからです。

もしもの時用として、ビニール袋や処置用のビニール手袋などをお渡しするのもよいかもしれません。

汚染がないように紙オムツなども、すぐ取り出せるように説明しておきます。

出血している場合

すでに出血などがあり、つめる場合には、

出血がありますので、流出を多少おさえることができる綿をつめさせていただきたいと思いますが、いかがでしょう。

つめる対応の場合は、必ずご家族に確認します。

もしNOなら、ご家族に拭っていただくように説明をします。

床ずれ

床ずれのある方に、

お尻の床ずれは、時間とともに臭いが気になり出す場合があります。それを抑えるためにラップで密閉しますが、それでも後から臭いが出て気になりましたら、葬儀社の方に相談してください。また、もし滲出液が沁み出てきたら、新しい紙オムツに交換してください。

蒸しタオル

ご本人に、

お顔に蒸しタオルを当てます。

…と声をかけ、鼻を塞がないように当てます。

耳の裏や首にもしっかりタオルが当たるようにして、冷たくなる前に外します。

死後の早い段階で蒸しタオルで熱を加えると、毛穴が開くなどの反応で、汚れがよくとれます。

クレンジングマッサージ

お顔のこわばりをほぐすマッサージをかねて、お顔や耳などのクレンジングをさせていただきます。口元のゆがみや眉間のしわやこわばりを整えます。

目蓋が開いている場合は、ここで閉じさせます。

皮膚の汚れが取れ、表情もみるみるうちに穏やかになりますので、顔のメイクは行わないという場合でも、クレンジングマッサージだけは行ってください。

保清と位置付けてもいいでしょう。

それほどに、効果があります。

臨終後の早い段階に、クレンジングマッサージによって顔が穏やかになると、そばでご覧になっているご家族は、ほっとしたような表情になります。

やわらかめのクリームを使って、肌を傷めないように優しい力で、顔の筋肉の走行を意識しつつ、中心から外側方向に、首は上から下に手を動かしてクレンジングマッサージをします。

肌の脆弱化を配慮し、肌をいためないよう弱い力でマッサージするのが望ましく、肌への圧や摩擦は行わないようにします。

どちらかというとクレンジングを意識して、小鼻や耳裏などを丁寧に、指を動かします。

ご家族は生きているときと、同様の感覚でご覧になっていますので、気持ちよさそうにマッサージをしてもらっていると感じるには、顔の中心から外側方向へ行います。

穏やかな表情とは、顔のパーツが中心に寄っているよりも、どちらかというと拡がり、眉間のしわがとれたような様子です。

目蓋が閉じにくい場合

目蓋のふちに二重目蓋用ののりを少しつけて閉じることができます。いかがでしょう。

目蓋が閉じにくい場合、ガーゼやティッシュを小さく切り、それを目蓋の内側にはさみこみ、その摩擦を利用して閉じる方法が一般的ですが、ご遺族がつらく感じることもあります。

二重目蓋用ののりは、ゴムが液体になっている商品のため、やり直しもできて扱いやすく、その後も目蓋がひきつったりしないのでお勧めです。

目蓋のふちに塗り、その部分を少し乾かしてから目蓋を合わせます。

一般の接着剤などは、ご家族が受入れがたく、また接着部が固定されてしまい時間とともに目蓋がひきつってしまう危険性があるため、お勧めできません。

無理に閉じてほしくないと、希望される場合

目蓋が閉じていないと、目の表面が急激に乾燥します。乾燥をおさえるために目に油分を塗布させていただきます。

油分塗布がNOなら、湿らせたガーゼなどで眼をカバーします。

ならわし

更衣と“ならわし”

下着をつけ終えたら、

次に衣類を着ていただきましょう。途中でお体を支えたり、靴下を履かせていただいたりを、お願いしてよろしいですか?

和服の場合なら、足袋、肌襦袢、着物、帯、帯締めの順に…

足袋を、どなたかお願いします。

キーパーソンあるいは、お孫さんなど目配せしながら声をかけ、ご遺体に触れたり、接するための貴重な機会と考えます。

和服も洋服も、普段着る順番に沿った方がよいでしょう。

では、肌襦袢を着ていただきましょう。上半身だけ少し起きるような姿勢で、袖を通していただきたいので、力をお貸しください。

側臥位への体位変換は、体液の流出など汚染の心配がありますので、ご家族とともに、上体を持ち上げて袖を通します。

私どもでは、基本的に生前と同様に、身だしなみを整えるようにしております。ご臨終になると手を組ませたり、顔に白い布をかけたりといった、ご遺体の印としての“ならわしごと”は、行わない方針です。儀式のご準備として、“ならわしごと”が、必要な段階になりましたら、葬儀社の方とご一緒に行っていただければと思います。いかがでしょうか?

ご家族のお気持ちで、判断なさってください。これからも、一つひとつ伺いながら進めさせていただきます。

和服のあわせについて、

前のあわせは、普段通りでよろしいでしょうか?ご帰宅後、必要な場合は“左前”になさってください。

闘病あるいは療養中に、和服や浴衣を着ていた方なら「今まで通りのあわせ方で、よろしいでしょうか?」という伺い方もよいでしょう。

ちなみに“左前”とは、相手から見て左の衽を上にして衣服を着ることです。

普段の着方と反対で、死者の装束に用います。

ただし、女性の洋服類は左前に仕立てます。

普段通りにお願いします。でも、どうして“左前”にするのでしょう。どんな意味があるのですか?

“左前”は、“逆さごと”の一つのようです。

“逆さごと”って何ですか?

ご遺体にまつわるいろいろなことを、普段の逆にしたのが“逆さごと”です。屏風があれば逆さにして“逆さ屏風”、身体を拭くお湯は、普段の逆で水にお湯を足して温度調節をする“逆さ水”をつくり、体は普段の逆の足もとから拭き、着物のあわせも普段の逆の“左前”にするなどです。日常では行わない不自然な形にすることで、生きている人と区別する必要などがあったのでしょう。自宅で看取りや葬儀が行われることが多かったころは、自宅でも“逆さごと“を行ったところが少なくなかったようです。現在は、湯灌サービスや葬式などのときに行われることが多いようです。地域によっては、掛け布団の柄が逆さになるようにかけたり、足袋を左右反対に履かせたりするところもあります。

帯と帯締めについて、

帯と帯締めは、お腹の上に乗せる形にいたします。今後のお身体の変化を考えると、あまり腹部を締めないほうがよいと思います。帯もしっかりお締めになりたい場合には、葬儀社の方にご相談ください。

帯や帯締めを締めていると、腹腔内が狭くなり、腐敗が進んで圧が高まった際に漏液しやすくなります。

洋装の際のズボンのベルトについても、同じ理由で緩めに通すことをお勧めします。

縦結び

浴衣をお召しになる場合、

胴の紐の結びも今まで通りでよろしいでしょうか?“ならわし”の“縦結び”は、必要な時にそうなさってください。

そうします。“縦結び”は、どんな意味があるのですか?

普段私たちは、蝶結びやリボン結びで横に結びますが、その逆として縦に結ぶ、“逆さごと”であるという説と、もう一つは、“縦結び”は“結び切り”とも呼ばれ、解けにくい結び方です。もう解けない、もうあの世から戻れないよ…という、つまり封じるような意味だという説もあるようです。

ネクタイ

ネクタイを結んで差し上げませんか?

あらかじめ、輪にしてから手渡すと、ご家族はつけやすいです。

事前に着替えの準備の声かけを行う場合

もしものことになった際に、お帰りになるときの着替えについて、〇〇さんからご希望や指示など聞いていませんか?

死後の着替えの準備を促すような声のかけ方をすると、ご家族は「縁起でもないことを言う」と感じる可能性がありますので、万が一のときのために確認するといった姿勢で声をかけます。

声をかけるタイミングは、担当医から危篤状態の説明時や説明直後などが自然です。

たとえ担当医から「覚悟してください」と説明された段階でも、あるいは、ご家族が覚悟されている様子が伺えても、声かけの際には「万が一のこと」「もしものこと」と前置きする方がよいでしょう。

着付けはできる範囲で

ケアの立場のあなたは、着付けのプロではありません。

和服を着ていただくときに手間取ったり、時間がかかるのが普通です。

また、死後ケアの時間は限られていますので、着替えに時間を多くとってしまうと、貴重な保清や顔の整えなどの時間が確保できなくなってしまいます。

そのため、ご家族とともに、そしてなるべく、ご家族が実施できるよう配慮して、できる範囲で行う形でよいと思います。

和服などを完璧に着せたいというご希望があった場合には、葬儀社の方にお任せするのがよいでしょう。

最近は、思い出の衣服を着てお帰りになるケースが多くなっています。

和服、背広、フラメンコの衣装、医師の白衣姿、パーティのドレス、消防団の制服、パチンコの勝負服…。

棺に入るときも洋装が少なく、ならわしごとはできませんので、葬儀社では“ならわしごと”を棺の中に納めます。

末期の水

“末期の水”とは“死に水”とも呼ばれるならわしで、臨終後に、ご家族が亡くなった人の口元に水をつける行為です。

末期を悟った仏陀が、弟子に何度も水を所望したと記されている仏典が由来のようです。

また、死者を蘇らせるために行う、宗教的な儀式が起源という説もあるようです。

いずれにせよ、「何かしてあげたい」という家族の気持ちにフィットした“ならわし”として続いてきた面もあるのではないでしょうか?

最近では、水ではなく、お酒やジュースなど、本人が好きだった飲み物を使うことが多いようです。

手を組ませる

手は組まずに今まで通り、自然にで…いかがでしょう。はい、組ませないでください。組むなら後からでも大丈夫ですよね?これも“ならわし”ですね。どんな意味があるのですか?

これも、封じる感覚などが由来しているようです。お帰りになって、儀式に向けて必要になりましたら組んでいただければと思います。身体が硬くなり、組むのが難しい場合には、葬儀社の方にご相談してください。

この“ならわし”も死の印づけの行為のひとつと言ってもよいでしょう。

葬儀社の方は、たとえ硬直がきいていても、手を組ませることができます。

また組まなければ、縛る必要もありません。

組ませる場合でも、包帯で手首を縛ると圧迫した部位は、その痕がついたままとなり変色してしまいます。

るいそうの方に

げっそり痩せちゃったのは、どうにかならないでしょうか?

…と、問われたら?

以前は口の中に綿を入れたりもしたのですが、かえって不自然な表情になってしまいます。どうしてもふっくらとしたお顔にということであれば、葬儀関係者にご相談ください。

基本的に、“るいそう”について、あえてご家族には言及する必要はありません。

ご家族は、徐々に痩せていくのを目の当たりにしていたので、“るいそう”の常態を受け入れている面もあります。

死後ケアを近しいご家族に向けての、最後の看取りの場と考えるなら、ふっくらさせる以外の保清や身だしなみの整えに、時間をとって手厚く対応した方が、ご家族の満足につながります。

患者さんファーストの死後ケア Simple Step By Step

Ⅵ.退院の時に文章を活用する
必要事項をご家族に伝える文章

退院時に文章を活用する