もっとも大切な、お顔への対応です。
お化粧、ヘアセット、そして開口や補修の手順を、case-by-case
そして、step by step で解説をします。
目次
- 1 お化粧
- 1.1 顔のメイクの基本手順
- 1.2 顔のメイク全体
- 1.3 顔に注目するよい機会
- 1.4 顔のメイク
- 1.5 男性の顔のメイク
- 1.6 十分なスキンケアが必要
- 1.7 男性の顔のメイク
- 1.8 ファンデーションはダークな色
- 1.9 ファンデーションとパウダー
- 1.10 ファンデーションはとにかく赤く
- 1.11 パウダーはムラなく
- 1.12 黄疸ある方
- 1.13 化粧品でカバー
- 1.14 黄疸のある方や土色の顔色をカバーする力の高い色
- 1.15 毛髪の生え際に注意
- 1.16 チーク
- 1.17 血色が穏やかさをつくる
- 1.18 アイブロウ(眉)
- 1.19 アイラインとマスカラ
- 1.20 穏やかな印象をもたらす裏ワザ
- 1.21 リップクリームと口紅
- 1.22 パレットを広げて、それをご覧いただきながら
- 2 補修
- 3 ヘアセット
- 4 開口
- 5 患者さんファーストの死後ケア Simple Step By Step
お化粧
顔のメイクの基本手順
手順自体は、私たちが日ごろ行っているメイクと変わりありませんが、
- 乾燥や蒼白化など、ご遺体特有の皮膚の状況への対応であること
- 最期の看取りの一場面であること
…などを意識します。
作業に集中して無言にならないように注意し、ご家族とコミュニケーションをとりながら進めます。
以下の手順を、すべて行わなければ、いけないわけではありません。
状況によっては適宜、工程を省略または、追加(化粧水、クリームなど)をしてください。
顔のメイク全体
ここで、ご本人の化粧道具を使うかどうか、声をかけるのもいいでしょう。
しかし本人のファンデーションは、死後変化による乾燥や蒼白化には適さない、リキッドファンデーションなどが多いので注意が必要です。
…と迷うなら、
もちろん無理強いはできませんが、率直におすすめする気持ちを伝えます。
それでもNOの場合は、乾燥防止のためのクリームやリップクリームだけは、塗布させていただきます。
顔に注目するよい機会
顔は、外見の中でも社会性が色濃い部分です。
ご本人よりも周囲の人の方が、何度もその顔を見て体調を察したり、機嫌を伺ったりしてきたと言っていいでしょう。
顔は周囲の人が、記憶の中に共有するものなのです。
その最期の顔が、どんな表情をしているのかは、周囲の人にとって大きな問題です。
皆で顔に注目して、その人らしい顔になっていくことで、さまざまな思い出話につながったり、悲しい事態ではあるものの、和の雰囲気になることが少なくありません。
告別式の最後に、亡くなった人の顔に対面する「お別れの儀」という演出が行われることがありますが、これは戦後に始まったことのようです。
また遺影も昔は、誰もが告別式に飾るわけではなかったようです。
遺影を見た後、ご遺体の顔を見てお別れをするようになり、それまでよりも最後の顔が、強く印象に残る時代になったのかもしれません。
顔のメイク
男性の顔のメイク
それでもNOの場合は、乾燥対策としてクリームやリップだけでもと勧めます。
十分なスキンケアが必要
男性の皮膚は、皮脂が多く水分が少ない傾向にあり、汚れが皮膚にたまりやすいと言えます。
闘病中や療養中に洗顔ができない日々が続き、さらに終始空調の風などにさらされています。
室内のホコリなども油分が多いと付着しやすいので、汚れが積もった状態になっている場合が多いのです。
これらの汚れは、蒸しタオルで拭いても十分に取ることができません。
また男性の場合、長年髭剃りをしてきたため、慢性的に肌がダメージを受けていると考えられます。
そのため男性の場合は、よりスキンケアが重要になります。
丁寧なクレンジングマッサージで、毛穴につまった汚れを取り、保湿を十分した後に下地クリームで整えます。
男性の顔のメイク
ファンデーションはダークな色
男性の肌色がダークな傾向にあるわけではありませんが、ダークな色のファンデーションを薄く伸ばしたほうが自然な印象になります。
また、ファンデーションは、油分の多いクリームタイプでも時間が経つと乾燥し、一段と白くなります。
男性は、それが違和感につながる場合もありますので、その点も配慮してダークな色を選びます。
口紅の色は、茶系やベージュ系がよいでしょう。
赤やピンクは混じっていない方が自然ですが、入っていては、いけないということではありません。
どの色がその人らしいか、ご家族に伺うのが大切です。
ファンデーションとパウダー
ファンデーションをつけるのは、蒼白化と乾燥への対応であることを伝えます。
パウダーについてもその理由を伝えましょう。
ファンデーションはとにかく赤く
こんなに赤くてよいのだろうか?…と、感じるほどの、赤みのあるファンデーションを使います。
それほど蒼白化によって、血色が失われます。
手の甲で練った段階で、かなり赤くないと、顔の血色を補うことができません。
ファンデーションは顔、耳、首につけます。
手の甲や指などに、つけてもいいでしょう。
ファンデーションを多くとってしまうと、ムラになるなど失敗しますので、少量をとります。
肌が弱くなっていますので、スポンジを肌につけて、力を入れて滑らせたりしてはいけません。
スポンジを静かに当てて、ファンデーションを肌に薄くのせていくような感覚で行います。
パウダーはムラなく
ベールの役割を果たすために、パウダーはムラなく塗り残しなく、つけるのがポイントです。
ブラシ、パフのどちらを使うにしても、パウダーをとったら、余分な粉をよく落としたのちに、ファンデーションを塗った部分につけます。
どこからどこへつけるのか、順番を決めておくと、つけ忘れがなくなります。
黄疸ある方
説明のタイミングは、顔にファンデーションをつける前あたりで、
うっすらとではなく、わりに顕著な肌色の変化です。
知らないで目の当たりにして困惑しないように、必ず伝えるようにします。
24~36時間ほどで、黄色→淡緑色、
36~48時間ほどで淡緑色→淡緑灰色になります。
化粧品でカバー
黄疸のある方には、濃い黄色のファンデーションをベースメイクに使用したり、肌色のファンデーションを混ぜてカバーします。
お顔が土色に近い肌になっている場合は、黄色の代わりにオレンジ色のファンデーションを使用すると、自然にカバーできます。
黄疸のある方や土色の顔色をカバーする力の高い色
眉のあたりや口まわり、髪の生え際などは、他の部分より濃くくすむ場合があるようです。
中には時間が経ち、眉が生えていないのに眉が浮き出てきたり、口のまわりに輪っかが出てきたりしますが、それらは黄疸による自然な変化です。
上から化粧品でカバーすれば問題ありません。
毛髪の生え際に注意
ビリルビン色素の沈着が多い部分は、色の変化が強く出てくるようです。
また、毛根部などに変化が強く起きます。
髪の生え際などは、ファンデーションでカバーしきれませんので、前髪を垂らして見えにくくします。
チーク
血色が穏やかさをつくる
ファンデーションに、赤をプラスしただけでは、血色は足りません。
さらにチークでプラスしないと、穏やかな印象にはなりません。
血色は予想以上に、表情の穏やかさと関連しているようで、失われた血色を補うと、とても穏やかな顔になります。
チークは、耳、額、目蓋、頬、顎先などに入れます。
亡くなった患者さんは、仰向けになっている関係で、蒼白化した耳があらわになっています。
この耳へのチークは、プロのメイクアップアーチストがモデルさんのメイクに行うテクニックです。
アイブロウ(眉)
…と、声をかけて始めます。
ご家族に細かに相談しながら、足りないところを補ったり、描いたりすることが大切です。
眉は、その人らしさや、印象をかなり左右する部分からです。
眉がしっかり生えている場合
眉毛の根元にたまっている油分や汚れを綿棒などで拭います。
次に、眉ブラシで眉をとかし、場合によっては眉バサミでカットします。
必ずご家族の了解を得てからカットします。
一部が抜けて薄くなっている場合
グレーやブラウン系のパウダーカラーやアイシャドウを細目のブラシにとり、薄くなっている部分につけます。
それだけでは色が薄い場合には、アイブロウペンシル(眉墨)で眉を一本一本植えるような意識で描き足します。
眉のほとんどが抜けている場合
グレーやブラウン系のパウダーカラーやアイシャドウを細目のブラシに取り、パウダーが濃くつかないように、余分なパウダーを拭ったあと、薄く描いてみます。
これらいずれかの対応をしたあと、あらためてご家族に、
…などと、伺って進めていきます。
ご家族は、具体的な形よりも、
…と、印象でおっしゃることもありますので、眉の形と印象のパターンについて知識を持っておくのもよいでしょう。
男性の眉は、眉のアウトラインに眉を描かず、眉の内側部分の色を濃くするように描くと自然です。

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アイラインとマスカラ
穏やかな印象をもたらす裏ワザ
一見して穏やかに、目を閉じているとわかるのは、大事なことです。
アイラインは、全ての目蓋の際に描くのではなく、目尻にすっと入れるだけでも、穏やかな目元になります。
マスカラもつけると、睫毛の影ができ、穏やかな印象をもたらします。
高齢の男性にもお勧めです。
リップクリームと口紅
NOであれば、色のないリップクリームかオリーブオイル、あるいはワセリンなどを塗布させていただきます。
パレットを広げて、それをご覧いただきながら
パレットにあるときと塗ったときでは、色が変わることがあります。
少し塗ってから…
…と、よく確認します。
ご家族が納得いくまで、確認を繰り返します。
既にくちびるが乾燥傾向にある場合は、口紅の前に下地としてリップクリームを使います。
乾燥が強い場合は、顔のクレンジングマッサージを始めるときに、オリーブオイルなど油分を塗布し、その上にラップを当てておきましょう。
しっとりとして、口紅がのりやすくなります。
ご主人に、
補修
顔面腫瘍・傷・潰瘍/チューブ痕
革皮様化を防ぐ方法
傷や腫瘍あるいはチューブ類の痕などのように、表皮が失われている状態で外気にふれていると、乾燥・収縮・変形などにより革皮様化してしまいます。
それを防ぎ、あるいは目立たなくするため、次の手順で対応します。
- その部位に、医療用のマイクロポアなどの肌色テープをサイズに合わせて貼り合わせていきます。
陥没がある場合は、ガーゼや綿球などで調整したあとに貼付します。
出血や滲出液があるときは、それを拭い、適宜ガーゼなどを当てた後貼付します。
流れ出るように出血や滲出液がある場合は、固定するためのニュークリーンジェルスプレーを使用後、ガーゼをしてテープを貼付します。 - その上に、透明のフィルム剤を貼付します。
- さらにその上に、ふたたび肌色テープを貼付します。
この時、テープが重ならないように貼り合わせます。
重なると表面がでこぼこになります。 - 乳液、ファンデーションなどでメイクをします。
くちびるや小さな腫瘍などには「フィルム剤+肌色テープ」を貼り、その上から口紅、ファンデーションなどを使います。
縊死の場合の首の部分も、表皮剥離しているならば以上の対応でよいでしょう。
表皮が失われていない傷なら、肌色テープのみを貼付してメイクすればよいでしょう。
また、顔やその周辺以外の目にふれない部分であれば、メイクの必要はないかもしれませんので、ご家族と相談して判断します。
身体損傷が大きい場合
事故などで身体の損傷が大きい場合は、ガーゼや包帯で対応したのち、洗髪や可能な損傷部分を保清など、身だしなみを整えるという形でよいと思います。
しかし、ご家族が損傷部分をできるだけ修復したいご様子なら、葬儀社への相談をうながします。
ヘアセット
髪の整え
ここでも、できるだけ細かに、ご家族に伺いながら進めます。
髪が長い女性の場合は、横にひとつにまとめるなどの他に、編み込みなどもお勧めです。
髪を梳ることは、身だしなみの整えの中でも印象に残る行為です。
ご家族は、些細なことも行っていいのかどうかわからず、不安な場面が多いので配慮します。
香りも、その人らしさの大きな要素です。
愛用のヘアクリームやスプレーもいいでしょう。
病状や治療の影響で脱毛がある方、手術の剃毛により毛髪がない方、外傷がある方などもいらっしゃいます。
キャップやスカーフ、場合によってはカラータオルなど、準備できるもので対応し、ご帰宅後にご希望のようにしていただくよう話します。
ちなみに、死後ケア時に白髪染めも可能です。
開口
開口への対応
無理に閉じてほしくないとお考えの、ご家族の希望もありますので、必ず確認してください。
枕を高くしすぎると首が屈曲するため、体液が自然に下りるのを妨げてしまいます。
枕を高くするときは、スロープ状を意識します。
チンカラー
お口を閉じる専用のものはチンカラーと呼ばれ、装着した様子が分かる写真をお見せしながら説明するのがよいでしょう。
しかし臨終直後の使用は、チンカラーが局所的浮腫の原因になったり、脆弱な皮膚を圧迫して悪影響を及ぼす場合がありますので、注意が必要です。
火葬は可能で、1個1,600円程度です。
チンカラー装着後に、
口元のみ少し開いている場合
口元のみ、少し開いている場合に、自然に閉じることができる方法です。
口腔ケアをしたのち、歯の表面に入れ歯安定剤を塗布し、そこに接する口腔内にも安定剤をのばして、口元を閉じて、しばし押さえます。
閉じないでほしいとご希望の場合
油分はオリーブオイルなどで可能です。
乾燥対策として、外気に触れないようハンカチやガーゼで、口元を覆うといった方法もよいでしょう。