患者さんご退院時の、ご家族への対応です。
ご遺体のケアも含めた重要事項の説明とお見送りの手順を、case-by-case
そして、step by step で解説をします。
死後の身体変化
死後の身体変化の細かな点にふれる前に、
…などの質問があったり、ご家族の様子から説明が必要だと感じたら、
これは退院後に、ご家族から電話での問い合わせを受けるとした場合のコメントです。
電話か文書で、分からないことを確認することができると思えることで、ご家族の不安や混乱を少なくします。
身体に起こる主な変化
発生時間(死後) | 死後変化 | |
30分~ | 顔面の蒼白化 | |
1時間~ | カテーテル・針抜去部位の皮下出血傾向 | |
6時間~ | 腐敗 | 腹腔内→胸腔内→全身へと広がる |
直後 | 体温低下 | |
臭気の発生 | ||
直後~ | 皮膚 | 乾燥 |
脆弱化 | ||
硬直は1時間~ | 筋の弛緩と硬直 | 弛緩後、顎関節→上肢→下肢と硬直 |
24時間~ | 黄疸の人の肌色の変化 | 黄色→淡緑色→淡緑灰色 |
※変化の度合いや時間には個人差があります。
体表面(皮膚)の乾燥傾向
…という質問の他、表情などから、さらに説明が必要と感じたら、
目蓋が閉じていない場合は、眼球も急激に乾燥します。
ただし、その点についてふれるのは、目蓋が閉じておらず、その対応をする時のみでよいでしょう。
口紅やファンデーションについては、顔のメイクを行う時に説明するとして、この時点では、
…としても、よいでしょう。
不可逆的なご遺体の変化
ご遺体の変化の仕方は不可逆的です。
変化する一方で、元の状態には戻らないということです。
乾燥も変化のひとつですので、乾燥が進む前の早い段階の対応が必要になります。
葬儀社の方が対応するのは、臨終直後ではなく、死後数時間後です。
その時までくちびるに油分がついていなければ、乾燥が進んでしまい、それを元にもどすのは難しいのです。
眼球の乾燥
眼球が外気に触れていると表面が、カサつくだけでなく、変色してしまうこともあるようです、
それはつらい印象になりますから、目蓋が閉じていない場合は、できるだけ早く閉じるようにします。
成人よりも水分量が多い新生児・乳児は成人よりも乾燥が激しく、干からびるという状況になりやすいため、身体、そして外気に触れる顔などに、たっぷり油分を使うのが望ましいでしょう。
皮膚の脆弱化
ご遺体の皮膚は脆弱です。
顔剃りにより表皮が失われ真皮が露出すると、他の皮膚よりも急激に乾燥し、硬化し、変色し、革皮様化と呼ばれる状況になります。
腐敗
冷却
ご遺体の温度管理をするには冷蔵庫がベストですが、冷蔵庫内は乾燥傾向にあるご遺体の乾燥を、助長する可能性があるため、湿度管理が大切になります。
解剖後に体を閉じる際に、体腔内には紙類など乾燥物がつめられることが多いようで、それにより乾燥が強くなる可能性があります。
腐敗という言葉はつらく感じますので、変化と説明します。
多くのご家族は、腐敗が進んだ状態や不可逆的に変化することを知らないので、その点をしっかり分かっていただく必要があります。
この説明をして、まだ理解できない様子なら、腐敗という言葉の使用を考えます。
保冷剤を見せながら、
死後ケアの現場では、ドライアイスの使用は現実的ではありません。
ドライアイスに比べれば、保冷剤や普通の氷の冷却力は低くなりますが、効果は十分期待できます。
腐敗してからでは遅い
腐敗をおさえる対応は、死後ケアの段階から行う必要があります。
葬儀関係者がドライアイスや冷蔵庫を用いて腐敗をおさえる段階では、もはや間に合わないケースも少なくありません。
ご遺体の変化は不可逆的ですから、腐敗してしまってからでは戻すことはできません。
早い方は、死後6時間くらいから激しい腐敗症状が出てしまいます。
腐敗によって起こること
- 腐敗変色…発生する硫化水素やヘモグロビンが由来
- 腐敗水疱…初期は透明〜後期は黒褐色
- 膨潤…皮下および組織内、体腔内に腐敗性ガスが貯留
- 体液・腐敗液漏出…口、鼻、耳からの漏液、脱糞
- 悪臭…強い腐敗性臭気の発生
- 崩壊…原型をとどめない変化
腐敗が起こる原因
死亡によって、身体の恒常性が保たれなくなります。
常在細菌叢の均衡は大きく崩れ、細菌群が暴走するように異常繁殖して、腐敗をもたらします。
腐敗は、腹部から胸部、全身へと広がります。
腐敗症状が進む速度や度合いについては、個人差があり早く激しく進むと思われるご遺体には、冷却対応は必須と考えた方がよいでしょう。
冷却には保冷剤がよいのですが、なければビニール袋に氷を詰めて使用します。
当てる部位は、下腹部、上腹部、胸部が必須で、前側頸部、鼠径部、腋下部も効果があります。
目安として、死後4時間以内に行います。
早く激しく進行すると思われる患者さんには、更衣が終了次第、できるだけ早い段階に行います。
腐敗が早く激しく進むと思われる患者さん
- 臨終前に高体温が続いた
- 敗血症、重篤肺炎
- 肥満、糖尿病
- 入浴中、サウナ内、高温環境下による高体温
顔面のうっ血
急性心機能不全で亡くなった方の中には、顔面にうっ血が生じる場合がありますので、
急性心機能不全で亡くなった場合、顔面の下半分に濃いうっ血が生じることがあるため、何も知らずに帰宅したご家族は、殴られたのでは?…と大変困惑します。
急性心機能不全で亡くなった方のご家族には、死後ケアの際に忘れずに説明する必要があります。
あるいは、お渡しする文書に盛り込むだけでなく、下線を引いておくなど配慮が必要です。
退院後の葬儀関係者のサービスについて
エンバーミングサービス
目的:防腐処置、外見の修復
専用の施設で専任スタッフが行います。
施術時に家族は同席できません。
洗体のあと、血管から防腐剤を注入し、身体の破損などを含め外見を修復します。
専用の施設で行われるため、必ずご遺体の搬送が必要となります。
ご遺体に、穿刺や切開などを施すのを望まないご家族には、合わないサービスです。
ヘアメイクや着付けも行います。
湯かんサービス
目的:旅立ちの準備
自宅や葬儀会館などで、湯かんスタッフが専用の湯舟で身体を洗い、ヘアメイク、着付けを行います。
ご家族はその様子を見守ることができ、日本の流儀に則り、儀式的雰囲気の中で行われます。
顔にかける白い布
「顔かけ」または「打ち覆い(うちおおい)」、 「面布(めんぷ)」などとも呼ばれるこの白い布は、その素材にこだわらず、原則として白い布を選ばれてお顔にかけられます。
昔は鼻や口など、穴の開いた箇所からは悪霊が入ると恐れられていました。
悪霊が入ると故人がそれに取り憑かれて、成仏できないからです。
それで顔を封印するために、白い布を掛けたり、耳や鼻などに綿を詰めたりするのです。
お見送り
病室から迎えの車までの移送
霊安室を使用せず、病院から直接出口へ移送する場合、
お迎えの車が到着し、お部屋にストレッチャーを押して来てもらうときは、いかにもご遺体を運ぶと連想させるものではない、普通の掛物をストレッチャーにかけて来てもらいます。
お迎えの葬儀社の方に、
…と、声をかけた後、ご家族にお辞儀をします。
そして、車が見えなくなるまで、お見送りをします。
お見送りは、ご家族にとって、予想以上に特別なシーンとして心に残るようです。
この時に会話をしているところを、ご家族に見られてしまうと、必ず良くない会話の内容だと思いこまれてしまいます。
足が先か?頭が先か?
生きているときと同様に…と、考えれば足を先に…が、自然です。
しかし葬儀社の車は頭から載せますので、足を先にして出口に出ると、そこで回転することになりますので、頭を先にしたほうがスムーズでしょう。
ご帰宅後の対応
帰宅後にご家族が、ご遺体の変化に接して、困惑したり不安になったりして、電話してきた時には、
ご遺体の変化についての知識がなく、口ごもってしまったりすると、先方の不安や疑問が膨らみます。
皆で知識を共有し、対応法を確認しあっておくことが大切です。